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雷が電柱に落ちたらどうなる? — 停電する時としない時の違い、鉄塔と冬の雷の話

最終更新: 2026-09-14/公開情報をもとに作成しています

夏の夕方、近くで大きな音がして、窓の外の電柱のあたりが一瞬明るくなった——そんなとき、あの柱の上では何が起きているのか。気になったまま、電気が消えずに夜になった、という経験をした方もいるはずです。

先に結論を書いておくと、雷が電柱に落ちたからといって、そのまま停電になるとは限りません。電柱と電線には、雷の電気を地面へ逃がすための設備が組み込まれています。そこで収まれば停電は起きず、逃がし切れずに機器が壊れれば停電になります。このページは、その分かれ目がどこにあるのかを、送配電会社・気象庁・電力中央研究所などの公開資料をもとに追いかけるものです。鉄塔や送電線に落ちた場合、日本海側の冬に多い「冬季雷」まで、順に見ていきます。

ひとつだけお断りを。いま実際に停電していて「なぜ消えたのか」「どうすればいいのか」を知りたい方は、別記事「雷で停電するのはなぜ?」のほうが近道です。この記事は、停電していない人も含めて「設備の中で何が起きているのか」を見にいく記事です。なお、家の中の電気設備の点検や操作については、このサイトでは扱いません。

まず前提 — 雷は「高いもの」に落ちる

雷は、いつも同じ場所に落ちるわけではありません。気象庁の「雷から身を守るには」では、雷は雷雲の位置次第で海面、平野、山岳などところを選ばずに落ちるとしたうえで、「近くに高いものがあると、これを通って落ちる傾向があります」と説明されています。街のなかで「高いもの」といえば、電柱や鉄塔です。

先に、人の身の守りかたを整理しておきます。気象庁は、鉄筋コンクリート建築や自動車、バス、列車の内部を比較的安全な空間として挙げたうえで、近くに安全な空間が無い場合は、電柱、煙突、鉄塔、建築物などの高い物体のてっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で、その物体から4m以上離れたところ(保護範囲)に退避する、と案内しています。日本大気電気学会も、高さ4m以上20mまでの物体、たとえば電柱などの頂点を45度の角度にみる空間は「保護範囲」と呼ばれ、ほぼ安全といえる、としています。電柱は「とにかく離れるべき危険物」というより、4m以上の距離をとったうえでなら退避の目印にできる設備だ、という位置づけです。

ただし、寄りかかるほど近づくのは別の話です。同学会は、建物や車など周囲に何もない所ではコンクリート製の電柱のそばが安全といえるとしたうえで、完全に接地されていない金属製の柱やフェンスのそばでは安全は保障されない、と注意しています。木は分けて覚えてください。気象庁は、高い木の近くは危険なので、木のすべての幹・枝・葉から最低でも2m以上離れるよう案内しています。日本大気電気学会は、落雷による死亡原因の第1位が開けた平地に立っていた場合、第2位が木の下の雨宿りで、この2つで全落雷死の半数以上を占める、としています。

ここから先は、人ではなく設備の話です。

雷で停電するのはなぜ? — 直撃雷と誘導雷、電柱の上で起きていること

電柱に雷が落ちた瞬間、何が起きているか

電柱のてっぺんを見上げると、いちばん高いところに1本だけ張られた線があることがあります。関西電力送配電の子ども向けページ「おくりんの電気教室」では、この架空地線を「電柱のてっぺんに設置されている設備で、避雷針(ひらいしん)の役割を持つ」と説明しています。避雷針そのものではありませんが、狙う役割は同じ方向を向いています。

その避雷針がどう働くかは、九州電力送配電の「避雷針について」に書かれています。避雷針は、高く突起したものに落雷しやすい習性を利用して雷をそこに導く装置で、落雷電流を逃がすために銅線や地面深く埋められた鉄骨・鉄筋を通して大地へ放電させる、と説明されています。雷を「避ける」のではなく、「先に受けて、決められた道を通す」。これがこの手の設備の考えかたです。

電柱でも同じことが起きています。北陸電力の研究年報「配電線下方に取付ける架空地線による避雷器雷被害の抑制」では、高圧線の上に張る架空地線の役割として、高圧線との電磁結合による雷過電圧の抑制、高圧線への直撃雷の保護、避雷器に流れる雷電流の抑制の3つが挙げられています。

受けた電気は、地面へ向かいます。柱に沿って降りる接地線が機器と大地をつなぎ、柱上変圧器のそばに付く避雷器が、もうひとつの逃がし口になります。どちらも図鑑に個別ページがあるので、形と役割はそちらへ。ここで押さえたいのは、北陸電力の研究年報が書いている避雷器のはたらきです。放電動作によって一次端子と二次端子(接地端子)の間の電圧を「制限電圧」に抑制するため、誘導雷過電圧にも直撃雷過電圧に対しても、ほぼ一定の電圧に抑制する効果がある——大きな電圧がかかったときだけ道をひらいて、その先の機器に届く電圧を決められた高さで頭打ちにする、という働きです。

2つの逃がし口の先はどこでつながるのか。同じ研究年報には、避雷器と架空地線を併用する場合は架空地線の接地を避雷器と共用する、と書かれています。てっぺんで受けた電気も、避雷器から流れ込む電気も、同じ接地を通って大地へ戻る形です(取り付け方は会社や場所によって違います)。

なお、この資料は避雷器と機器個別の避雷装置をまとめて「避雷器」と呼ぶ、と断っています。この記事でも以下「避雷器」で通します。

電柱に入った雷の電気がどこを通って地面へ抜けるかを示した正面図。電柱のいちばん上に張られた架空地線が雷を先に受ける経路と、柱上変圧器のそばに付いた避雷器がひらいた逃がし口から流れ込む経路の2本を赤い矢印で示し、どちらも柱に沿って降りる接地線を通って大地へ向かう。架空地線には「いちばん上で雷を先に受ける」、避雷器には「入り込んだ電気の逃がし口」、接地線には「柱に沿って降りて大地へ返す」という説明が添えられている。設備の形や取り付け位置は会社や場所によって異なる、という注記付き。
電柱に入った雷の電気が地面へ抜ける道すじ(イメージ図)出典: 電柱図鑑オリジナル図解(公開情報をもとに作成)

架空地線(図鑑)避雷器(図鑑)接地線(図鑑)

落ちても停電しないことがある — 電柱の「守りのしくみ」

ここが、この記事のいちばん言いたいところです。雷が電柱や電線に入っても、そのまま停電になるとは限りません。逃がし道のほうで収まってしまえば、家の明かりは消えないままです。

そもそも配電線は、雷に対して分の悪い場所に立っています。北陸電力の研究年報では、配電線の雷害は配電線への直撃雷のみならず配電線近傍への雷撃による誘導雷過電圧が原因となる、それは配電線の絶縁レベルが送電線などに比べて低いためだ、と説明されています。だからこそ、逃がすしくみを先回りで仕込んでおく必要があります。同じ資料では、避雷器の施設間隔が200m程度であれば、誘導雷による被害はかなり少なくなることが示された、とされています。

電線そのものの性質も味方します。同資料は、高圧絶縁電線は雷撃しにくいため、架空地線が高圧線上方に無くても電柱頂部が雷遮へい物となり、高圧絶縁電線への雷撃の防止もしくは軽減が期待できる、としています。電柱の頭が高く突き出していること自体が、電線の傘になっている場面がある、という話です。

機器を守る側の工夫も積み重なっています。同資料には、1992年より高圧線保護用耐雷ホーン、変圧器保護用ZnO支持がいしなどの取付けを行ってきており、高圧線や変圧器の雷害は減少してきている、と書かれています。設備は「壊れない」ようにつくられているというより、「壊れる場所と壊れかたを決めておく」方向に積み上げられてきた、と読むほうが近そうです。

とはいえ、ここで安心しきってしまうのは早い話です。同じ資料は、避雷器や機器個別の避雷装置自体が雷で焼損(損傷)する被害が増加してきていること、それらの被害は誘導雷ではなく直撃雷などの雷撃電流によるもので、特に冬期に多いことも、あわせて報告しています。守る側の部品が壊れることがある——この事実は、後半の冬季雷の節でもう一度出てきます。

「避雷器が付いているから雷は平気」と読まないでください。逃がせる量には限りがあり、逃がす側の機器が傷むこともある、というのが公開資料の書きぶりです。次の節は、その限界を越えたときの話です。

避雷器(図鑑)高圧配電線(図鑑)

それでも停電になるのはどんなときか

逃がし切れなかったとき、何が起きるのか。各社の説明は、そろって「設備が壊れると停電する」という言いかたをしています。中部電力パワーグリッドの「落雷のときは」では、雷が電柱や電線に落ち、電気を送る設備が損傷し、停電が発生する場合があります、と説明されています。東京電力パワーグリッドの「停電復旧のしくみと停電理由」でも、雷が電線等に落ちて、電線・変圧器等の電気を送るための設備が損傷すると、停電が発生します、と書かれています。

壊れる側の代表格が、電柱の上に載っている機器です。関西電力送配電の「おくりんの電気教室」では、柱上変圧器の近くに設置されている高圧カットアウトについて、雷などで異常な電流が流れた時に切りはなすことで柱上変圧器を保護する役割を持つ、と説明されています。避雷器は電圧を抑え、高圧カットアウトは異常な電流が流れたときに切り離す——公開されている説明を並べると、守りが何重かに重ねられていることが分かります。それでも収まらなければ、機器そのものが傷みます。

ただ、停電になったからといって、そこで話が終わるわけではありません。関西電力送配電の「復旧のしくみ・復旧の流れ」では、停電発生から1分後に自動的に変電所内のスイッチが入り、再び送電が開始されること、この際、停電原因が取り除かれていた場合は全区間が自動で復旧することが説明されています。

原因が残っていた場合は、探す作業に入ります。東京電力パワーグリッドの資料では、1分後に変電所の遮断器が入って配電線への送電を再開すること、配電線の開閉器は電気がきてから7秒後に入り、各区間は順次7秒ごとに電気が送られて、区間ごとの時差で事故区間を判定していることが説明されています。順番に送っていって、どこで止まったかで事故の場所を割り出す、という考えかたです。日本電気技術者協会の解説でも、無電圧の時間が1分程度のものを低速度再閉路と呼び、これが主として配電線に適用されている、とされています。

場所が分かったら、事故区間には人が向かいます。東京電力パワーグリッドの資料では、高圧配電線の事故対応を、配電線自動化システムによる事故区間の特定・健全区間への送電(約3分)、現地出向による事故点の調査(数時間程度)、事故点の除去・復旧、という段階で説明しています。「1分ほどで戻る停電」と「数時間かかる停電」は、同じ落雷から枝分かれした先にある別の道すじだ、ということになります。復旧の順番や「うちだけ遅い」理由は、別記事にまとめています。

雷が電柱や電線に落ちたあとの分かれ道を示したフローチャート。出発点の「雷が落ちる」から、守りのしくみが電気を逃がし切れば「停電なし」へ、機器が壊れれば「停電」へと道が分かれる。停電の側はさらに、1分後に変電所のスイッチが自動で入って送電が再開され、原因が取り除かれていれば全区間が復旧する道と、原因が残っていれば区間ごとの開閉器が7秒ごとに順に入って事故区間を特定し、現地の調査へ進む道に分かれることを示している。
雷が落ちたあとの分かれ道(イメージ図)出典: 電柱図鑑オリジナル図解(公開情報をもとに作成)

雷で停電するのはなぜ? — 直撃雷と誘導雷、電柱の上で起きていること停電の復旧時間はどれくらい? — 復旧の順番と「うちだけ遅い」理由高圧カットアウト(図鑑)柱上開閉器(図鑑)

鉄塔・送電線に落ちたとき

電柱より、もっと高いものがあります。鉄塔です。中国電力ネットワークの「送電設備」では、日本国内にこう長約8万kmの送電線と約24万基の鉄塔がある、と紹介されています。守りも本格的です。日本電気技術者協会の「送電線の雷異常電圧とその対策」では、塔頂に架空地線を設置して送電線を遮へいし、鉄塔を通じて雷電圧を大地に放電している、と説明されています。鉄塔そのものが、巨大な逃がし道だということです。

ところが、ここに抜け道があります。関西電力送配電の「雷が電気に与える影響」では、送電線への落雷に伴い、大きな雷電流により鉄塔電位が大幅に上昇すると、がいしにかかる電圧が耐電圧を超え、送電線で故障が発生することがあります、と説明されています。日本電気技術者協会の解説はもう少し踏み込んで、架空地線による遮へいが十分でも塔脚の接地抵抗が大きいと過大な鉄塔の電位上昇により、逆フラッシオーバが発生し雷異常電圧が送電線に進入する、としています。がいしを飛び越えて電気が流れるのがフラッシオーバ、鉄塔側から送電線側へ飛ぶのが逆フラッシオーバ、という書き分けです。

飛んでしまったときに被害を小さくするのが、アークホーン(アーキングホーンとも呼ばれます)です。電力中央研究所の電中研ニュースでは、架空送電線を吊しているがいしと並列にアークホーンを設置し、雷害で発生するアーク放電からがいしの損傷を防いでいます、と説明されています。放電する場所をあえて作っておいて、アークをがいしから引き離す金具、というわけです。

そこまでしても、雷は送電線の最大の相手です。電力中央研究所の電中研ニュースは、送電線のトラブルのうちかみなりが原因の件数は約40%と割合が一番大きい、としています。電気学会の用語解説にも、送電線事故の約40%が雷に起因している、と書かれています。年次までは各資料でそろっていないため、「約4割とされる」という幅で受け取ってください。

では、送電線に雷が落ちるたびに街が真っ暗になるのかというと、そうはなっていません。事故が起きた送電線は切り離されますが、そのあと自動的にスイッチが入り、再び送電されるしくみがあるからです(これを再閉路といいます)。日本電気技術者協会によれば、事故遮断から再閉路完了までが1秒以内のものを高速度再閉路と呼び、超高圧の主幹送電線に採用されているとされています。同協会は、再閉路の成功率は現在95%以上に達しているとも書いています。さらに、架空送電線の事故は雷害・塩害・飛来物の接触などすべてフラッシオーバであり、アーキングホーンの効果もあって、がいし連の破断など永久事故になることは極めて少ない、ともしています。

家庭側から見ると、この出来事は停電ですらないことがあります。関西電力送配電・北陸電力・東北電力ネットワークがそろって挙げる、0.07秒〜2秒程度の「瞬時電圧低下(瞬低)」です。瞬低は電圧が下がるだけで停電はしていない状態で、短時間の停電である瞬停とは別物です。どちらがどう見えるかは「瞬停(一瞬の停電)とは?」にまとめています。

この対策にも限界があることを、各社は隠していません。東北電力ネットワークは、送電線は厳しい自然にさらされており、架空地線や避雷器などの対策を行っているが、電力会社側の設備で瞬時電圧低下を完全に防ぐことは困難だ、としています。電気新聞の報道によれば、東京電力パワーグリッドのエリアで、送電鉄塔の最上部にある架空地線をくぐり抜けて送電線を直撃するケースが相次ぎ、機器の故障が発生したため、同社が変電所に避雷器を追加設置する対策を打っている、とされています。

鉄塔に落ちた雷のゆくえを示した正面図。鉄塔の最上部に張られた架空地線が雷を受け止め、鉄塔の鉄骨を通って地面へ流れていく経路を矢印で示している。腕金から吊り下がるがいし連の上端と下端には、一対のアークホーンが小さな角として描かれている。あわせて、塔脚の接地抵抗が大きいと鉄塔側の電位が上がり、鉄塔側から送電線側へ電気が飛ぶ逆フラッシオーバが起きることがある、という注記が添えられている。下段のがいし連には、送電線側へ飛ぶ放電を表す赤いギザギザの線が描かれている。
鉄塔に落ちた雷のゆくえ(イメージ図)出典: 電柱図鑑オリジナル図解(公開情報をもとに作成)

アークホーン(図鑑)架空地線(図鑑)懸垂がいし(図鑑)瞬停(一瞬の停電)とは?すぐ戻るのはなぜ — 台風と雷の季節に起きやすい条件と家電への影響電気はどこから来るの? — 近所の鉄塔から、発電所までさかのぼる

冬の日本海側に落ちる「冬季雷」

ここまでは、夏の夕立の雷を思い浮かべて読んでもらって差し支えありません。ただ、日本にはもうひとつ、設備にとって手ごわい雷があります。冬の日本海側の「冬季雷」です。

月の区切りかたに、ひとつ注意が要ります。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「日本型風力発電ガイドライン 落雷対策編」では、日本の雷を夏季(4〜10月)と冬季(11〜3月)に分けています。北陸電力の研究年報も、4月から10月を夏期、11月から3月を冬期として区別しています。一方、気象庁が「冬」と呼ぶのは12〜2月です。この記事の「冬季(11〜3月)」は電力・風力の分野の区切りだと受け取ってください。

冬季雷の何が違うのか。気象庁の「雷検知数の季節的特徴」では、日本海沿岸の冬の雷は、夏の雷に比べて放電の数が少ないものの、一回あたりの雷の電気量が多く、落雷すると被害が大きくなりやすい特徴があるといわれています、と説明されています。気象庁の「放電密度と落雷害の関係」でも、冬季は日最大対地放電密度が夏季よりも小さくなるが、同じ値における災害発生率は高い、とされています。

電気の量そのものも桁が違います。NEDOの資料では、夏季雷では0.1〜数10クーロン程度の雷が多いといわれるのに対し、冬季雷では300クーロンを超す例が多数観測されており、通常の夏季雷の100倍を超えるものもある、とされています。北陸地域では400〜500クーロンの電荷量を持つ落雷も計測された、という記述もあります。

落ちかたも独特です。同資料では、冬季雷では地上の高構造物先端から放電が発生し、雷雲へ向かって上向きに進展を開始する上向き放電の例が多く観測される、とされています。こうした放電は一般にトリガード雷と呼ばれ、冬季は雷雲中の電荷の高度が低く、地表面突起物での初期の電界が夏季に比べ強くなるためだと考えられている、と説明されています。鉄塔や煙突の側から雷が伸びていくわけです。

どこで多いのかも書かれています。NEDOの資料では、冬季雷への対策を優先すべき雷対策重点地域は、北海道南部から山陰地方にかけての日本海側の地域に分布している、とされています。雷対策機器メーカーの音羽電機工業も、冬季雷は秋田県から鳥取県にいたる日本海沿岸と、その海岸線から約35kmまでの内陸部に多く発生している、と解説しています。

では、その冬季雷が配電設備に何をしているのか。北陸電力の研究年報には、北陸地域での配電機材別の雷害比率という珍しいデータが載っています。配電機材の雷被害のうち避雷器が占める割合は、通期39%・冬期56%・夏期23%で、冬期の避雷器被害の比率は全体の50%を超え、夏期に比べて約2.4倍と高いとされています。これは2000〜2004年度の北陸地域のデータで、件数は通期364件・冬期189件・夏期175件と注記されています。全国の話でも、いまの話でもありません。ただ、前の節の「守る側の機器が壊れる」が数字として現れている、ということは読み取れます。

対策のほうはどうか。同資料では、作業停電を回避でき施設コストの低減が可能な、配電線下方に取付ける架空地線を考案し、解析を行ったことが報告されています。ふつうは電線の上に張る架空地線を、下に張ってみるという発想です。これは研究として報告されたもので、どこかの会社がいまそうしていると読まないでください。

なお、当サイトでは天気の予報・予想は行いません。これから雷がどうなるかについては、気象庁の発表を確認してください。

  • 電気の量: 夏季雷は0.1〜数10クーロン程度が多いとされるのに対し、冬季雷は300クーロン超の観測例があり、夏季雷の100倍を超えるものもある(NEDO)。
  • 落ちる向き: 冬季雷では、地上の高い構造物の先端から雷雲へ向かう上向き放電が多く観測される(NEDO)。
  • 被害の出かた: 冬季は放電密度が夏季より小さいのに、同じ値での災害発生率は高い(気象庁)。
  • 地域: 雷対策重点地域は、北海道南部から山陰地方にかけての日本海側に分布している(NEDO)。

避雷器(図鑑)架空地線(図鑑)

落雷のあと、電力会社は何をしているか

自動のしくみで戻らなかった停電は、人の手に引き継がれます。東京電力パワーグリッドの「停電復旧のしくみと停電理由」では、問題のあるエリアに社員が緊急出動し、「最終的には電柱を一本一本調査して異常のある場所を特定します」と説明されています。

その負担は、研究の側からも語られています。電力中央研究所の電中研ニュースでは、送電用避雷装置の普及に伴い、雷による送変電設備の被害は減少しているものの、完全になくすには至っておらず、落雷に伴う設備の巡視・点検に多大な労力を要しています、と書かれています。同号は、標定誤差が50m以下の高精度落雷標定システムの開発を紹介しています。

実際の落雷停電が、どんな規模と時間で起きているのか。公開されている例を2つ挙げます。中部電力パワーグリッドのニュースリリースでは、2024年7月27日に静岡県中東部の広い範囲で約243,000戸が15時46分から最長で22分間停電し、停電の原因は落雷の影響によるものだった、と発表されています。京都新聞は、2025年7月26日午後5時4分ごろ、京都市左京区上高野、修学院地区などで約2,700戸が停電し、約2時間40分後にすべて復旧したこと、関西電力送配電が落雷を原因としていることを報じています。規模と時間は比例しません。

最後の区間が残ることもあります。九州電力送配電の「停電の復旧手順」では、高圧配電線の復旧が完了しても、電柱から家につながる電線(引込線)が断線している場合は停電が続くため、引き続き復旧を行う、と説明されています。

停電の復旧時間はどれくらい? — 復旧の順番と「うちだけ遅い」理由停電情報の調べ方 — 全国の停電情報ページまとめ

雷のあとに近づいてはいけないもの

最後に、いちばん大事な話です。関西電力送配電は、切れた電線が垂れ下がったり、電柱が傾いていたりしても、絶対に近づかないように、と呼びかけています。九州電力送配電も、電線が切れた箇所を発見された場合は、感電する恐れがあるので、電線には触れずに最寄の配電事業所に連絡するよう案内しています。

覚えることは3つだけです。近づかない、触らない、その地域の送配電会社へ知らせる。見つけたときの具体的な動きかたは「電線が切れて垂れ下がっている」に、雷が鳴っているあいだの身の守りかたは「雷で停電するのはなぜ?」にまとめています。

電線が切れて垂れ下がっている — 見つけたときの連絡先と近づいてはいけない理由雷で停電するのはなぜ? — 直撃雷と誘導雷、電柱の上で起きていること電線や電柱から火花が出ている — 雨の日・台風のあとに多い理由と連絡先電柱が傾いている?と思ったら — 連絡先と知っておきたいこと切れた電線・垂れた電線(図鑑)

よくある質問

雷が電柱に落ちたら、必ず停電しますか?

停電するとは限りません。電柱のてっぺんの架空地線や、柱上変圧器のそばに付く避雷器、柱に沿って降りる接地線は、雷の電気を大地へ逃がすための設備です。北陸電力の研究年報では、避雷器は放電動作により端子間の電圧を「制限電圧」に抑制するため、誘導雷過電圧にも直撃雷過電圧に対してもほぼ一定の電圧に抑制する効果があること、避雷器と架空地線を併用する場合は架空地線の接地を避雷器と共用することが説明されています。ここで収まれば停電にはなりません。一方、中部電力パワーグリッドや東京電力パワーグリッドの説明では、雷が電柱や電線に落ちて電線・変圧器等の電気を送るための設備が損傷すると停電が発生する、とされています。停電するかどうかは、逃がし切れたか、機器が壊れたかの分かれ目で決まります。

電柱の一番上についている線は避雷針ですか?

避雷針そのものではありませんが、役割は近いものです。関西電力送配電の子ども向けページ「おくりんの電気教室」では、電柱のてっぺんに設置されている架空地線について「避雷針(ひらいしん)の役割を持つ」と説明されています。九州電力送配電の解説によれば、避雷針は高く突起したものに落雷しやすい習性を利用して雷をそこに導き、銅線や地中の鉄骨・鉄筋を通して大地へ放電させる装置です。架空地線も、電線より先に雷を受けて大地へ流すという点で同じ考えかたに立っています。北陸電力の研究年報では、架空地線の役割として高圧線への直撃雷の保護や、避雷器に流れる雷電流の抑制が挙げられています。

雷が鳴っているとき、電柱の下は安全ですか?何m離れればいいですか?

まず優先されるのは、安全な空間に入ることです。気象庁は、鉄筋コンクリート建築や自動車、バス、列車の内部を比較的安全な空間として挙げたうえで、近くに安全な空間が無い場合は、電柱、煙突、鉄塔、建築物などの高い物体のてっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で、その物体から4m以上離れたところ(保護範囲)に退避する、と案内しています。日本大気電気学会も、高さ4m以上20mまでの物体の頂点を45度の角度にみる空間は「保護範囲」と呼ばれ、ほぼ安全といえる、としています。同学会は、建物や車など周囲に何もない所ではコンクリート製の電柱のそばが安全といえるとする一方、完全に接地されていない金属製の柱やフェンスのそばでは安全は保障されない、とも注意しています。つまり、真下ではなく4m以上離れた場所、それも安全な空間に入れないときの選択肢、という順序です。

鉄塔に雷が落ちたら、送電線はどうなりますか?

多くの場合、送電線は切り離されたあと自動的に送電が戻ります。日本電気技術者協会の解説では、塔頂の架空地線が送電線を遮へいし、鉄塔を通じて雷電圧を大地に放電していること、ただし塔脚の接地抵抗が大きいと鉄塔の電位上昇によって逆フラッシオーバが発生し、雷異常電圧が送電線に進入することが説明されています。事故が起きた送電線は切り離されますが、その後に自動的にスイッチが入って再び送電されます(これを再閉路といいます)。同協会によれば、事故遮断から再閉路完了までが1秒以内のものを高速度再閉路と呼び、超高圧の主幹送電線に採用されているとされています。再閉路の成功率は現在95%以上に達しているとも書かれています。家庭側では、停電に至らず0.07秒〜2秒程度の瞬時電圧低下(瞬低)として現れることがあります(関西電力送配電・北陸電力・東北電力ネットワーク)。

冬季雷と夏の雷は何が違うのですか?

数と、一回あたりの大きさと、落ちる向きが違います。気象庁は、日本海沿岸の冬の雷は夏の雷に比べて放電の数が少ないものの、一回あたりの雷の電気量が多く、落雷すると被害が大きくなりやすい特徴があるといわれている、と説明しています。NEDOの落雷対策ガイドラインでは、夏季雷は0.1〜数10クーロン程度が多いとされるのに対し、冬季雷では300クーロンを超す例が多数観測されており、通常の夏季雷の100倍を超えるものもある、とされています。また冬季雷では、地上の高構造物の先端から雷雲へ向かう上向き放電の例が多く観測される、とも書かれています。なお、この分野で使う「冬季(11〜3月)」は電力・風力の区切りで、気象庁が「冬」と呼ぶ12〜2月とは範囲が違います。

電柱に雷が落ちると火事になりますか?

電柱そのものが燃える・焦げるという送配電会社の公式な説明は、今回の調査では見つかりませんでした。各社の説明はいずれも「電線・変圧器等の電気を送るための設備が損傷すると停電が発生する」という書きかたで止まっています。一般論としては、日本雷保護システム工業会(JLPA)が、雷撃点が非金属の場合はアーク放電による発熱で周辺の空気や水分が爆発的に膨張するため、部材がコンクリートや石材の場合は破損し、飛散して地上に落下する危険がある、と説明しています。ただしこれは建築物の雷保護を前提にした一般的な記述で、電柱で同じことが起きるとまでは書かれていません。電線や電柱から火花が見えているときの行動は別記事に、電気が戻る瞬間に起きる通電火災については通電火災の記事にまとめています。

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