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無電柱化は災害に強い?弱い? — 台風・地震・水害をめぐる旅
最終更新: 2026-08-15/公開情報をもとに作成しています
やあ、ぼくでんチュン。電柱に住んでいるスズメだよ。「でんチュンの世界の電柱たび」も、今回で5回目。第1回の旅では、世界には電柱の「ない」街があること、日本に電柱が多いわけ、そして地中化にはとてもお金がかかることをたずねたよね。今回は、その旅の続きなんだ。
無電柱化のいいところとして、景観や通行空間とならんで、よく「防災」が挙げられるよ。倒れる電柱がなければ、災害に強い街になる——そう聞くと、なるほどと思うよね。でもね、資料を読んでいくと、「災害に強い?」の答えは災害の種類によって変わるんだ。台風のとき、地震のとき、水害のとき。それぞれに、強い面と苦手な面があるんだよ。
今回の旅は、飛行機には乗らずに、「台風」「地震」「水害」という3つの災害をめぐって、電柱のある街とない街のそれぞれの顔を見にいくよ。旅のおともは、国土交通省や資源エネルギー庁、国立国会図書館の公開資料。どちらかを応援する旅ではなくて、両方の顔をそのまま見る旅だよ。それじゃ、出発!
「電柱がなければ停電しない」は本当?
まずは、どうして「無電柱化は防災にいい」と言われるのか、おさらいから始めるよ。国立国会図書館の資料(2016年)によると、近年は特に防災の観点から無電柱化の重要性が訴えられていて、地震の際に倒壊した電柱が避難や救助活動に支障を来す危険性が指摘されているんだ。国の「国土強靱化基本計画」でも、防災性の向上のために有効な施策の一つとして位置付けられている、と紹介されているよ。
たしかに、倒れる電柱がなければ、電柱が道をふさぐことはなくなる。でも「災害」とひとことで言っても、ビュービュー風が吹く台風、グラッと揺れる地震、じわじわ水が上がってくる水害では、電気の設備に起きることがまるでちがうんだ。そして国の資料には、地中に電線を収めた設備(地中線)の強い面だけじゃなくて、苦手な面もきちんと整理されているんだよ。
そこで今回の旅は、こんな道順で進むよ。まず、いちばん強いとされる「台風・強風」への顔。つぎに、苦手とされる「水害」への顔。それから、強さと苦手が同居する「地震」。最後に、国がどんな考え方で無電柱化を進めているのかをたずねる。どっちが勝ちかを決める旅じゃないから、安心してついてきてね。
強い面 — 台風・強風・電線につく雪には強いとされているよ
台風への強さから見ていくよ。2019年9月に上陸した台風15号では、千葉市で最大瞬間風速57.5m/sを観測する記録的な暴風となって、停電被害は最大約93万戸。停電がおおむね復旧するまでにかかった時間は約280時間と、近年の停電被害のなかでは突出していた——と資源エネルギー庁の解説記事(2020年)で紹介されているんだ。このとき破損・倒壊した電柱は1,996本。2018年の台風21号のときの1,343本の約1.5倍だったそうだよ。
同じ記事によると、このときの電柱の被害は、倒木や建物の倒壊に巻き込まれたり、物が飛んできたことで引き起こされた「二次被害」が多くを占めるとされているんだ。電線が地中にあれば、倒木や飛来物が電線や電柱に当たること自体が起きない。国土交通省の政策レビュー評価書(2022年)でも、電線を管理する会社への聞き取りとして、地中線は「地震や雷・風雨・竜巻・台風、飛来物等による被害を受けにくく、停電しにくい」こと、風雨・氷雪——電線につく雪や氷のことだよ——などの気候条件や樹木の影響を受けにくいことが、災害時・平時のメリットとして整理されているよ。
数字も見てみよう。同じ評価書には、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災における被害率として、通信線では架空線2.4%に対して地中線0.03%で架空線の80分の1程度、電力線では架空線10.3%に対して地中線4.7%で半分程度というデータが載っていて、「圧倒的に地中線の被害率が低い」とまとめられているんだ。2011年(平成23年)の東日本大震災でも、津波エリアの通信線で架空線7.9%に対して地中線0.3%(25分の1程度)だったとされているよ。
ひとつだけ、数字を見るときの注意だよ。この被害率は、阪神・淡路の通信線は概ね神戸市内で供給に支障が生じた設備延長の割合、電力線は震度7の地域で供給に支障が生じた区間・設備数の割合、東日本の通信線はケーブルの断線が発生した区間の割合——というように、災害や設備ごとに計測のしかたがちがうんだ。同じものさしの比較ではないけれど、「地中線は供給支障の発生率が低かった」という大きな絵は、どの数字からも見えてくるね。
苦手な面 — 浸水・洪水では立場が入れかわる
つぎは、苦手とされる顔。水害だよ。さっきの資源エネルギー庁の記事には、じつはこんな続きがあるんだ。2019年10月の台風19号では、記録的な大雨が発生して、「電気設備などが浸水した地域では停電が長期化しました」とされているよ。電気の設備をおびやかすのは、空から来る風だけじゃなくて、足もとから来る水もなんだね。
そして水害では、架空線と地中線の立場が入れかわるんだ。国土交通省の政策レビュー評価書では、災害時の架空線のメリットとして「水害時等、浸水による被害が発生しにくい」ことが挙げられている一方で、地中線のデメリットとして「水害に弱く、目視が困難なため被災状況の確認に時間がかかる」こと、そして仮復旧がしにくく、資機材や人材の確保、掘削、地上機器の再設置などで復旧に時間を要することが整理されているんだ。地面の下の設備は、掘らないと点検も修理もできないから、どこが壊れたかを探すところから時間がかかるんだね。
第1回の旅で会った「地上機器」——電柱のかわりに変圧器の仕事をしている、歩道の脇の金属の箱——のことも思い出してほしいんだ。あの箱は地上に立っているから、まわりが水につかれば浸水のリスクと隣り合わせだよ。国の「第3次無電柱化推進計画」(2026年6月)でも、ハザードマップで津波・高潮や洪水・浸水が予測される地域などで対応がむずかしい場合は、「柱上型機器や屋側配線、地上機器の嵩上げなどの手法を検討する」とされているんだ。水への備えは、無電柱化を進める国の計画にも織り込まれている宿題なんだね。
地震のときは? — 壊れにくさと直しやすさの両論
では、地震はどうだろう。まず、電柱にとって地震がこわい災害であることは、数字がはっきり示しているよ。国立国会図書館の資料によると、阪神・淡路大震災では電柱8,000本以上が倒壊するなどの被害を受けて、東日本大震災でも電柱5万6000本が被害を受けたと報告されているんだ。第3次無電柱化推進計画でも、2024年(令和6年)1月の能登半島地震で約3,480本の電柱が倒壊・損壊して、道路啓開——救援のために道をひらく作業のことだよ——の支障となったことが挙げられているよ。
じゃあ地中線は地震にまるごと強いのかというと、そうとも言い切れないんだ。政策レビュー評価書には「地中線の場合は飛来物等による被災リスクは低いものの、被災状況の把握が困難であり、復旧に時間を要する点が課題である」と書かれているし、国会図書館の資料でも、供給支障がいったん発生すると管路を掘り返して事故点を確認する必要があるなど、復旧に時間を要することが課題として挙げられているよ。揺れによる供給支障そのものは起きにくいとされる一方で、いざ起きたときの復旧には時間がかかる面がある、ということだね。
第3次無電柱化推進計画は、この両面をそのまま書いているんだ。阪神・淡路大震災と東日本大震災の被害率は「架空線に比べ地中線が低いものの、地震災害における地中線の復旧には時間を要する場合もある」として、地中ケーブルのどこが壊れたかを探す手法の研修を進めることや、「架空線による速やかな応急復旧」を実施することが盛り込まれているよ。壊れにくさでは地中線、直しやすさでは架空線。国の資料は、どちらか一方だけをヒーローにはしていないんだね。
「どちらが正解」ではなく、適材適所で進んでいる
ここまでの旅で見えてきたのは、「災害に強い?」の答えがひとつじゃない、ということ。それを踏まえてか、国の進め方も「すべての道をいますぐ無電柱化」ではないんだ。2026年(令和8年)6月に策定された「第3次無電柱化推進計画」(計画期間は2026年度から2030年度までの5年間)では、無電柱化の必要性の高い区間から重点的に進めていくこととされているよ。
特に重点とされているのが、災害のときに救援や物資を運ぶ車が通る「緊急輸送道路」だよ。高速道路のインターチェンジと県庁などの主要な拠点を結ぶ路線などが「優先整備区間」とされて、電柱倒壊リスクの解消を目指すとされているんだ。さっき見た「地震で倒れた電柱が道をふさぐ」問題に、いちばん効く場所から進める、という考え方なんだね。
いっぽうで、浸水が予測される地域では地上機器の嵩上げなどの手法を検討する、ともされていたよね。つまり、場所ごとの災害リスクや目的に合わせて、進める場所とやり方を選んでいく——「適材適所」の考え方だよ。ちなみに、無電柱化がなかなか広がらない理由の代表である「お金」の話と、世界の街との無電柱化率くらべは、第1回の旅でじっくりたずねたから、そちらもぜひ読んでみてね。
でんチュン視点 — 電柱は「見えるから、すぐ直せる」
最後に、電柱に住んでいるぼくから、ひとつだけ電柱の自慢をさせてね。政策レビュー評価書の整理では、災害時の架空線のメリットとして「目視による被災状況の把握が容易で、仮設復旧もしやすく、速やかな復旧が可能である」ことが挙げられているんだ。空中にある電線は、見上げればどこが壊れたかわかる。だから壊れても、直すのが速い。電柱は「すぐ直せる」ことで電気を守っているインフラなんだよ。
台風のあと、電力会社の人たちが無事な区間から順番に電気を戻していく復旧の流れは、「台風と停電」のページでくわしく旅したよね。そして、そもそも電柱が1本きりで立っていられるのは、全長の約6分の1が地面の下に埋まっていて、支線という装置で力のバランスを取っているから。そのひみつは「電柱はなぜ倒れない?」のページで観察できるよ。
電柱のある街には「見えるから直しやすい」という強さがあって、電柱のない街には「風や飛来物に壊されにくい」という強さがある。そしてどちらの街の足もとにも、電気を守るための工夫と、壊れたら直しに駆けつける人たちがいるんだ。空を見上げても、地面を見つめても、電気の旅は続いている。それじゃ、次の旅でまた会おうね。
第1回から第4回までの旅も、よかったらまた読んでみてね。次の旅先も、おたのしみに。
よくある質問
無電柱化のデメリットは?
国土交通省の政策レビュー評価書(2022年)では、地中線は建設コストが高いことに加えて、災害面では「水害に弱く、目視が困難なため被災状況の確認に時間がかかる」こと、掘削や地上機器の再設置などで復旧に時間を要することが整理されているよ。国立国会図書館の資料(2016年)では、工事の長期化や、変圧器などの地上機器の設置場所をめぐる地域の合意形成も課題として挙げられているんだ。
日本で無電柱化が進まないのはなぜ?
国立国会図書館の資料(2016年)では、最大の理由は整備費用の高さと言われているんだ。道路1km当たり土木工事に約3.5億円・電気設備工事に約1.8億円かかるとされ、電柱を使う場合(1000〜2000万円)よりずっと高額なんだって。歴史的な経緯やお金の話は、第1回の旅「なぜ日本は電柱だらけ?」でくわしくたずねているよ。
無電柱化すると停電は減る?
災害の種類によるよ。国土交通省の政策レビュー評価書では、地中線は台風・竜巻・飛来物などによる被害を受けにくく停電しにくいとされていて、阪神・淡路大震災でも供給支障の発生率は地中線のほうが低かったというデータが載っているんだ。いっぽうで水害には弱いとされていて、浸水した地域では停電が長期化した例も報告されているから、「どんな災害でも停電しない」というわけではないんだね。
水害が心配な地域では無電柱化しないほうがいい?
一概には言えないんだ。国の第3次無電柱化推進計画(2026年6月)では、ハザードマップで洪水・浸水などが予測される地域で対応がむずかしい場合は、柱上型機器や屋側配線、地上機器の嵩上げなどの手法を検討するとされているよ。つまり「やる・やらない」の二択ではなくて、場所ごとのリスクに合わせたやり方が検討されているところなんだ。個別の地域でどう進めるかは、国や自治体、電線を管理する会社のあいだで調整されていくものだよ。
あわせて読みたい
参考にした公開情報
- 国土交通省「令和3年度 政策レビュー結果(評価書)無電柱化の推進」(2022年3月・PDF)(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 国土交通省「第3次無電柱化推進計画」(2026年6月・PDF)(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 国土交通省「東日本大震災・阪神・淡路大震災時のライフラインへの被害状況」(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 国立国会図書館「無電柱化をめぐる近年の動向―課題と推進策―」(調査と情報 No.921・2016年)(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 資源エネルギー庁 エネこれ「『台風』と『電力』〜長期停電から考える電力のレジリエンス」(2020年1月23日)(外部リンク・新しいタブで開きます)