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50Hzと60Hz — 日本の電気がふたつに分かれているわけ
最終更新: 2026-08-09/公開情報をもとに作成しています
やあ、ぼくでんチュン。電柱に住んでいるスズメだよ。「でんチュンの世界の電柱たび」も、今回で4回目。第1回は電柱の「ない」街をたずねて、第2回は木の柱の国とコンクリートの国をくらべて、第3回は「停電」のことばの旅をしたよね。そして今回の行き先は——じつは、日本の中なんだ。
「世界の旅なのに日本?」って思うよね。でもね、日本の中には「電気のちがう世界」がふたつあるんだよ。東の電気は1秒間に50回、西の電気は60回。この「電気のリズム」のちがいが、50Hz(ヘルツ)と60Hzなんだ。そして、ひとつの国の中にふたつのリズムが同居しているのは、世界を見わたしてもとてもめずらしいこと。つまり日本は、世界の旅人が見に来たくなるような、ふしぎな国でもあるんだね。
今回の旅では、ふたつの世界のさかいめをたずねて、分かれたわけを明治時代までさかのぼって、最後は世界のリズムともくらべてみるよ。旅のおともは、電力会社や公的機関、電気の学会などが公開している資料。それじゃ、出発!
日本の中に、電気のちがう世界がふたつある
まずは「周波数」のおさらいから。コンセントから来る電気は「交流」といって、電気のプラスとマイナスが1秒間に何十回も入れかわっているんだ。この入れかわる回数が周波数で、単位はHz(ヘルツ)。50Hzなら1秒間に50回、60Hzなら60回——電気がリズムを刻んでいる、そんなイメージだよ。
そして日本では、このリズムが地域によってちがうんだ。中部電力の解説には「静岡県の富士川と新潟県の糸魚川あたりを境にして、東側は50ヘルツ、西側は60ヘルツの電気が送られています」とあるよ。新潟県の糸魚川と静岡県の富士川の「あたり」を結ぶラインの東がわが50Hz、西がわが60Hz。同じ日本なのに、電気の世界はここでふたつに分かれているんだね。
「あたり」と書いたのには、わけがあるよ。さかいめは、県境みたいにきっちり引かれた1本の線ではないんだ。シャープの案内でも「およそ」富士川と糸魚川を境に、と説明されていて、さらに「境界付近には『50Hz』と『60Hz』の混在地区もございます」と添えられているよ。さかいめの近くには、両方のリズムが混ざっている地域もある。ふたつの世界は、じんわりとなだらかに隣り合っているんだね。
なぜふたつに分かれたの? — 明治時代までさかのぼる
分かれたわけをたずねる旅は、明治時代——日本で電気の事業が始まったころまでさかのぼるよ。関西電力の子ども向けページには、東京には「ドイツ製」の発電機が輸入されて電気をつくりはじめたこと、そして大阪にやってきたアメリカ製の発電機は「周波数が『60Hz』の電気をつくる発電機だった」ことが紹介されているんだ。ドイツ製は50Hz、アメリカ製は60Hz。最初のボタンのかけちがいは、ここだったんだね。
電気学会の電気技術史の資料にも、「明治中頃に東京電灯がドイツから、大阪電灯がアメリカから発電機を購入したのが理由であることは、よく知られている」とあるよ。東京と大阪、それぞれの街の電力会社が、べつべつの国から機械を選んだ——そのふたつのリズムが、やがてそれぞれ東日本と西日本へ広がっていったんだ。
ちなみに、世界の電気もはじめから2種類だったわけじゃないよ。日本電気技術者協会の解説によると、交流が使われはじめたころは高いほうで133Hz、低いほうで25Hzと、8種類ほどの周波数が入り乱れていて、長い時間をかけて50Hzと60Hzに落ち着いていったんだって。世界がふたつのリズムにしぼられていく途中で、日本はたまたまその両方を取り入れた、というわけなんだね。
なぜ今さら統一できないの?
「じゃあ、どっちかにそろえちゃえばいいのに」って思うよね。ぼくも思った。でも、これがとてつもない大ごとなんだ。
リズムを片方にそろえるには、電気をつくる発電所や送りとどける変電所の設備から、工場の機械、家庭で使われている機器まで、合わなくなるものを入れかえたり直したりする必要があるんだ。電力会社や大学などがつくる電気工学のサイト「パワーアカデミー」の解説では、すべてをどちらかの周波数にそろえるには「何十兆円という莫大な費用や長い時間がかかる」とされているよ。
何十兆円——ちょっと想像もつかない金額だよね。だから日本は、むりにひとつにそろえるのではなく、「ふたつのまま、上手に橋をかける」道を選んできたんだ。その「橋」の正体は、このあとの旅でたずねるよ。
間違えて使うとどうなるの?
気になるのは、50Hz用の機器を60Hzの地域で(またはその逆で)使ったらどうなるか、だよね。家電製品の中には、周波数を基準にして動くものがあるんだ。中部電力の解説には、ヘルツのちがいを確認せずに誤って使うと「器具を傷めたり性能を低下させるばかりか、火災の原因にもなりかねません」とあるし、シャープの案内にも、器具の性能を変化させたり故障の原因になることがある、と書かれているよ。
目じるしになるのは、機器に書かれた表示。中部電力の解説によると、「50/60Hz」と表示されていれば全国どこでも使えるけれど、「50Hz」か「60Hz」の単独表示のものは使える地域が限られている、と案内されているんだ。
最近の家電には、50Hzでも60Hzでも使える「ヘルツフリー(50/60Hz両対応)」のものが多くなっているけれど、対応しているかどうかは機種によってちがうんだ。シャープの案内でも、引っ越しのときは事前に引っ越し先の周波数を確かめておきましょう、とすすめられているよ。手もとの機器が使えるかどうかは、取扱説明書と各メーカーの案内で確かめてね。
世界はどうなってる? — リズムも電圧も国それぞれ
ここからは、世界とのくらべだよ。世界の国々の電気は、おおまかに50Hzの国と60Hzの国に分かれているんだ。パナソニックがまとめている各国の電気事情の一覧を見ると、イギリス・ドイツ・フランスといったヨーロッパの国々や中国などは50Hz、アメリカ・カナダ・韓国などは60Hzとなっているよ。
そして思い出してほしいのが、ここまでの旅。ひとつの国の中に50Hzと60Hzが同居している日本は、世界でもめずらしい存在なんだ。電気学会の資料には「異周波数の大規模商用系統が並存する国は、日本を措いて他にはない」——ちがうリズムの大きな電力の系統がひとつの国に並んでいるのは日本のほかにない、とまで書かれているんだよ。
もうひとつ、国によってちがうのが「電圧」、つまり電気を押し出す力の強さだよ。日本は全国どこでも100ボルトで、日本政府観光局の英語の案内でも、日本で使われている電圧は全国一律100ボルト、と紹介されているんだ。いっぽう、アメリカやカナダは120ボルト、ヨーロッパの多くの国は230ボルト。世界の一覧をながめると120〜240ボルトの国がずらりと並んでいて、日本の100ボルトは世界でも低いグループなんだね。
ふたつの世界の橋渡し — 周波数変換所
さっき「ふたつのまま、上手に橋をかける」と言ったよね。その橋の正体が「周波数変換所(周波数変換設備)」。50Hzの電気を60Hzに、60Hzの電気を50Hzに変えて、東西のあいだで電気を融通するための設備だよ。パワーアカデミーの解説では、長野県の新信濃変電所、静岡県の佐久間周波数変換所と東清水周波数変換所が紹介されているんだ。
この橋の大切さを日本中が実感したのが、2011年の東日本大震災。資源エネルギー庁の記事によると、震災で多くの発電所が被災して、東京電力エリアでは約1,000万kWもの供給力不足が起きて、2011年3月に10日間の計画停電が実施されたんだ。当時、全国的にはじゅうぶんな電力の供給力があったのに、エリアとエリアをつなぐ送電インフラが制約となって、首都圏の不足を賄う電力を融通することができなかった、と説明されているよ。そういえば「計画停電」を英語でどう言うかは、前回のことばの旅でたずねたよね。
この経験をきっかけに、橋を太くする工事が進められてきたんだ。全国の送配電の会社たちの発表によると、2021年3月31日には新しい「飛騨信濃周波数変換設備」が動きはじめて、東西で変換できる量の合計は120万kWから210万kWに拡大。さらに300万kWまで増強することが決まっているんだって。ふたつの世界は、少しずつ太い橋でつながれていっているんだね。
きょうから見える楽しみ
今回の旅は、飛行機に乗っていないのに、世界の中の日本のめずらしさが見えてくる旅だったね。引っ越しや旅行で糸魚川と富士川のあたりを通りすぎるとき、「いま、電気のリズムがちがう世界をまたいだんだな」って思い出してもらえたら、ぼくはうれしいな。
おうちでできる観察もあるよ。家電の取扱説明書や本体の表示をながめて、「50/60Hz」の文字をさがしてみて。見つけたらそれは、ふたつの世界のどちらでも暮らしていける、旅上手な家電ということなんだ。図鑑らしく「見て、読んで、たしかめる」——それだけで、いつもの家電がちょっと旅の仲間に見えてくるよ。
電気のリズムは東と西でちがっても、夜の窓にともる明かりのあたたかさは、どこでも同じ。それじゃ、次の旅でまた会おうね。
第1回・第2回・第3回の旅も、よかったらまた読んでみてね。次の旅先も、おたのしみに。
よくある質問
なぜ日本では50Hzと60Hzを統一できないの?
発電所や変電所の設備から工場の機械、家庭の機器まで、片方の周波数にそろえるには入れかえや調整が必要で、パワーアカデミーの解説では「何十兆円という莫大な費用や長い時間がかかる」とされているんだ。そのため日本は統一ではなく、周波数変換所で東西の電気を融通しながら、ふたつのまま運用する道を選んでいるよ。
50Hzと60Hzの境目はどこ?
中部電力の解説では「静岡県の富士川と新潟県の糸魚川あたりを境にして、東側は50ヘルツ、西側は60ヘルツ」と案内されているよ。きっちり1本の線があるわけではなくて、シャープの案内にあるように、境界付近には50Hzと60Hzの混在地区もあるんだ。
東京は50Hz?それとも60Hz?
東京は50Hzだよ。大阪は60Hzなんだ。明治時代に東京の電力会社がドイツ製(50Hz)、大阪の電力会社がアメリカ製(60Hz)の発電機を輸入したことが始まりで、日本政府観光局の案内でも、東日本は50Hz、名古屋・京都・大阪をふくむ西日本は60Hzと紹介されているよ。
周波数を間違えて使うとどうなるの?
中部電力の解説では、確認せずに誤って使うと「器具を傷めたり性能を低下させるばかりか、火災の原因にもなりかねません」とされているよ。最近の家電にはヘルツフリー(50/60Hz両対応)のものが多くなっているけれど、対応は機種によってちがうから、取扱説明書と各メーカーの案内で確かめてね。
あわせて読みたい
参考にした公開情報
- 中部電力「電気のマメ知識 地域と周波数」(外部リンク・新しいタブで開きます)
- シャープ「電源周波数地域(50Hz地域/60Hz地域)について」(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 関西電力 教えて!かんでん「なぜちがう周波数ができてしまったの?」(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 電気学会 電気技術史技術委員会「電気技術史 第83号『日本に50Hzと60Hzとが並存する理由 ~東京電灯と大阪電灯~』」(2020年・PDF)(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 日本電気技術者協会「電力周波数が50・60Hzに落ちついた事情」(外部リンク・新しいタブで開きます)
- パワーアカデミー「震災と電気工学 その1 周波数変換の謎、徹底解剖。」(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 資源エネルギー庁 エネこれ「電力システム改革の鍵を握る『広域機関』」(2018年)(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 東京電力パワーグリッドほか一般送配電事業者9社「飛騨信濃周波数変換設備の運用開始について」(2021年4月1日)(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 日本政府観光局(JNTO)「Japan Electrical Outlet」(英語)(外部リンク・新しいタブで開きます)
- パナソニック 海外仕様品「主な国/地域の代表的な電気事情」(外部リンク・新しいタブで開きます)
- 計測技術研究所「世界の電源電圧・周波数」(外部リンク・新しいタブで開きます)